ショートショート工房

自作のショートショートを掲載します

2020-01-01から1年間の記事一覧

ドキュメンタリー

「ドキュメンタリー番組を作りたいんです」 ある若手監督が、テレビ局のプロデューサーに直訴した。 「ドキュメンタリーは金にならないから、正直乗り気はしないな」 「そうおっしゃらずに‥面白い題材があるんですよ」 「話だけは聞こう。手短に頼むよ」 「…

地球侵略

「これから侵略するのは、彼らの言葉で地球と呼ばれている惑星だ。戦力を出し惜しみはしない。我々300億人で、この惑星を侵略する。情けは無用だ。地球を血の海に沈め、我々のユートピアを築こう」 司令官の演説に、異星人の軍隊は咆哮で答えた。 軍隊は大気…

タイムマシン

「博士、ついにやりましたね」 「ああ、ついにタイムマシンが完成した」 ある研究所の一室で、博士と助手は開発の成功を祝い、ささやかな祝杯を挙げていた。 「この研究は君がいなくては成功しなかっただろう。本当にありがとう」博士は一礼した。 「そんな‥…

目玉商品

とある商社に、一台のロケットが帰還した。 「ただいま帰りました」 スーツを着こなした、いかにも営業職の男がロケットを降りて、上司に一礼した。 「ああ、帰って来たか。今回はどこまで出張していたんだい?」 「地球です。ここからおよそ六千光年離れた…

貧乏神

ある日突然、俺の小汚いアパートに、小さな薄汚い男が現れた。 「誰だ、お前は?」 「誰って――貧乏神だよ」男はにやりと笑った。黒く汚れた歯がむき出しになった。 「ふざけるな、不法侵入者。出て行けよ」俺は貧乏神に紙くずを投げつけたが、紙くずは男を素…

時代考証

「先生、ここの部分の描写がおかしいですよ」 小説家の原稿を読みながら、編集者が言った。 「あれ、そうかな?」小説家は首を傾げた。 「主人公が牛乳を飲むシーンですが、牛乳はほとんど流通していません。稀少で手に入れるのは困難だと思われます」 「そ…

惚れ薬の効果

「よし、これで99%完成だ」とピンク色の薬瓶をみながら、博士は笑った。 「やりましたね、博士。ここで研究を開始してからの5年間、長かったですね」助手も笑みを浮かべた。 「ああ。これでようやく惚れ薬の完成だ。この香水を男がつければ、薬の臭いでどん…

アリとキリギリス

むかしむかしある所に、働き者のアリと怠け者のキリギリスが暮らしていた。 アリは毎日一生懸命に働き、冬に備えて食料を貯めこんでいた。一方のキリギリスは、ろくに働きもせず、毎日遊び惚けてばかりいた。 今日も今日とて、キリギリスは草の上でメスを侍…