ショートショート工房

自作のショートショートを掲載します

目玉商品

とある商社に、一台のロケットが帰還した。

「ただいま帰りました」

 スーツを着こなした、いかにも営業職の男がロケットを降りて、上司に一礼した。

「ああ、帰って来たか。今回はどこまで出張していたんだい?」

「地球です。ここからおよそ六千光年離れた惑星です。わが社の新しい目玉商品を探すべく、星の隅々を巡って参りました」

「ああ、あの発展途上惑星か。あそこには大したものはないだろう。文明のレベルも、衛星までの有人飛行がやっとで、ワープ航法すらまだ開発されていないだろう」

「ええ、まるで蛮族の世界でしたよ。仕事でなければ、二度と行こうとは思いません。――しかし、思わぬ掘り出し物もありました」

「掘り出し物?」

「これです」男は透明なケースを取り出した。

「これは――」上司は息をのんだ。「美しいな。スマートなフォルムも良いし、なにより体の光沢が神々しい」

「やはりそう思われますか」男は嬉しそうに言った。「私も一目見て、惚れこんでしまいました。それに繁殖も容易なんです。実際に旅の途中で、どんどん増殖していきました」

「素晴らしいの一言だよ。よく見つけてきてくれた。わが社の新たな目玉商品として売り出していこう」

「ありがとうございます」

「君の出世は決まったも同然だよ。わたしも君を推薦したものとして、そのおこぼれにあずかるつもりだがね」

 二人は目を合わせて、大きく笑った。

 この惑星に空前の地球産ゴキブリブームが起こるのは、僅か3か月後の出来事だった。