ショートショート工房

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タイムマシン

「博士、ついにやりましたね」

「ああ、ついにタイムマシンが完成した」

 ある研究所の一室で、博士と助手は開発の成功を祝い、ささやかな祝杯を挙げていた。

「この研究は君がいなくては成功しなかっただろう。本当にありがとう」博士は一礼した。

「そんな‥恐縮です」

「お世辞ではない、本当だよ。君がいなければ、この莫大な量の計算は、私だけでは手に負えなかった。感謝のしるしとして、このタイムマシンを初めて使用する権利をあげよう。人類初の時間旅行者になれるぞ。どこか行きたい時代はないかい?」

「本当にいいのですか?」助手は目を輝かせた。「私は幕末の日本史が好きで、中でも新選組が大好きなんです。ぜひ、新選組が活躍していた160年前に行きたいです」

「若いのになかなか渋いな」博士は苦笑した。「では、乗りたまえ」

「ありがとうございます」

 博士と助手の二人はタイムマシンに乗り込み、池田屋事件の起こった1864年へとタイムスリップした。

 

 博士がタイムマシンのドアを開けると、見渡す限り荒野が広がっていた。地面は干からびて地割れを起こし、辺りに植物は見当たらなかった。

「おかしいな、場所を間違えたかな」

「あっ、でもあそこに人の姿が見えますよ」

 助手が遠くの人影を指さした。目を凝らしてみると、裸の筋骨隆々とした男が歩いていた。さらに目を凝らすと、辛うじて下半身に布をまいていた。片手には石器、もう片方の手には動物の肉が握られていた。

「原始人のようですね。私たちは間違って旧石器時代に来てしまったみたいです」

「いや、そうではないな」博士は青ざめながら言った。「どうやら内蔵されていた超光速粒子の位相が、設定ミスで逆転していたようだ」

「つまり、どういうことですか?」

「我々は160年前ではなく、間違って160年後の未来に来てしまったのだ。この荒れ果てた世界は未来の地球で、あの原始人は我々の子孫だ」