ショートショート工房

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アリとキリギリス

 むかしむかしある所に、働き者のアリと怠け者のキリギリスが暮らしていた。

 アリは毎日一生懸命に働き、冬に備えて食料を貯めこんでいた。一方のキリギリスは、ろくに働きもせず、毎日遊び惚けてばかりいた。

 今日も今日とて、キリギリスは草の上でメスを侍らせながら音楽を奏で、それに飽きたら酒を飲んでと放蕩三昧であった。そこに、息を切らしながら砂糖の塊を運ぶアリが通りかかった。

「辛気臭い奴がいるよ」とキリギリスはアリを横目で見ながら言った。「そんなにあせくせ働いてどうするんだ。食い物なんてその辺にいくらでも転がってるのに」

「これはごあいさつだな」とアリは立ち止まって言った。「もうすぐ冬が来る。そうなったらろくに蓄えもないお前は、飢え死にするしかないぞ」

「おー、怖い怖い。ま、せいぜい気を付けるよ」

 キリギリスは酒で赤らんだまま、にやりと笑った。アリは不愉快そうに顔を歪めて立ち去った。

 

 やがてアリの言った通り冬が来た。雪がちらほらと降り始め、辺りの草木は枯れはててしまっていた。どこを探しても食料は見当たらなかった。

 そのころアリは、自分の巣の中で病床に臥せっていた。春から秋まで、休みなく働き続けたせいで、すっかり体を壊してしまったのだ。冬の寒さも祟って、もはや余命いくばくもない状態であった。

 キリギリスがアリを訪ねたのはそんな時だった。アリはキリギリスの顔をみてぎょっとした。冬だというのに、キリギリスはでっぷりと太っていた。

「やあ、君が体を壊したと聞いて、お見舞いに来てやったよ」

「お前‥どうして‥」アリは息も絶え絶えに言った。「冬に向けての蓄えなんて‥全くしてなかったはずなのに‥」

「隣の森のハチ達が、俺の演奏をひどく気に入ってくれてね。冬の間は娯楽がないからって、たまに演奏に行くだけで、余ったハチミツを貰えるんだ。ハチミツの食べ過ぎで、むしろ太ってしまって困っているよ。我ながら、自分の才能が怖いね」

「そんな‥バカな‥」

 アリが信じられないという表情を浮かべると、キリギリスはここぞとばかりにまくし立てた。

「お前、自分が真面目に生きてるからって、適当に生きてる俺のことを見下してただろう。正直、不愉快だったぜ。でもな、俺に言わせればお前なんて、真面目に生きるしか能がない無能なんだよ。自分の頭で考えることをせずに、真面目に生きてれば報われるだろうと信じて、その結果何も成し遂げずに死んでいく愚か者さ」

「そんな‥」

「でも大丈夫だ。君の頑張りは無駄にはならない。この家の中の食料は僕が有効活用しておいてあげよう。ゆっくり眠るがいい」

 アリは絶望的な表情を浮かべたが、もはや反論する力は残っていなかった。キリギリスの意地悪く笑った顔が、アリがこの世で見た最後の光景になった。